「ものづくりの理想郷」への道のり

平和酒造山本典正のブログ

【平和クラフト始動⑤】

前回からずいぶんと時間が空いてしまいましたね。行くところ行くところであの続きどうなっているのと、、、ちょっと今季の紀土の醸造の計画などに追われていましたが(^_^;)また再開!!『平和クラフト始動⑤』です。
クラフトビールの立ち上げのために、広島の酒類総合研究所に単身勉強に行き、そこでいろいろなことを学びました。それまでクラフトビール醸造販売を急ごうと言っていたのはほかならぬ私自身だったのですが、この研究所での勉強を経て、考えが大きく変わりました。『ビールの醸造は日本酒とは違う部分で難しい。いますぐ販売するのではなく、おいしいビールの醸造法をもっと極めてからにしよう』と。
ここまでが前回までの大まかなあらすじです。
そう考えが決まったのはいいのですが、ひとつ問題がありました。
平和酒造には『ミル』という道具がなかったのです。
この道具は、コーヒー豆を挽くコーヒーミルと同じようなもので、ビールの原料となるモルト麦芽)を挽く(粉砕する)道具です。挽いたコーヒー豆が売られているように、ビール醸造でもすでに挽いてあるモルトが売られています。それを使えばとても便利で、モルトを挽く必要がなく、もちろんミルを買う必要はありません。
しかし便利なものには欠点がありがちなものです。思い出してみてください。買ってきたコーヒー豆をミルで挽いた時のいい香りを。この香りは挽いてすぐしかでない香りです。モルトミルの場合も、モルトの種類を自由に選べないことや、なにより挽きたてでないために品質もよくないという欠点がありました。
平和クラフトを本格的に世に出すには、ビールの味の根本ともいえるモルトを自由に選べないのは致命的ではないか。私はそう考えて、ミルを購入しようと決めたのでした。
この時うっすらと嫌な予感がしました。私のこだわりを追求し始めると紀土の醸造の時のように多大な出費が、、、うーん回り道をしてそうな、、、とはいえ『まずは品質!品質』と嫌な予感に蓋をします(^_^;)何をおいても美味しくないものを出したくないんですよね。
そんなわけで新品のミルも買った、さて造るぞ! と意気込んだのはいいのですが、肝心のビールを造る醸造機械が次々とトラブルを起こすわけです。この機械は、倒産したビールメーカーの機械で、父である社長が競売で落札して入手したものでした。中古とはいえ、総額500万円!!
クラフトビール醸造機械は、日本のクラフトビールの創成期に様々な醸造器具メーカーが参入し見様見真似で欧米の物を参考に作っていました。
うちにあるのもそのたぐいの物。この種の醸造機械はメーカーごとにさまざまにカスタマイズされていて、よく似た機械はあっても同じものはほとんどありません。一つ一つタンクの仕様やボタンの設置位置が違うのです。
私たちの前に現れた銀ピカに光り立派に見えるそれが以前どんなふうに使われてきたのかを推測するところから始めるわけです。
それはまるで考古学者が遺跡を掘り起こしたときに、ここではどんな人たちがどんな生活を送っていたのかと想像する作業に近いものがあります。いくつものボタンがついているけど、これはどんな場合に使っていたのだろうか。これを押すとどんなことが起こるんだろうか。この蓋にマジックで○○℃になったらボタンを切ると書いているがどういうことだろうかと高木さんと私で議論しながら試行錯誤をしました。
  
そのこと自体は、ものづくりをする人間にとっては楽しい作業でもあります。それ以上に問題だったのは、中古であったため、醸造機械がボロボロだったということです。外側はほれぼれするほどきれいなのですが、一番大切なビールや麦汁を通る内側が悲惨でした。麦芽カスが詰まっていたり、ヘドロのようなものが配管にこびりついていたり……。それらをひとつひとつ洗っていく作業は困難を極めました。
 
機械を点検してそうした現実を知った高木さんは、げんなりした顔をして私に言いました。
「前のメーカーさんは、よくこんな状態でビールを醸造してましたね」
それに対して私は「だから潰れたのかもしれないね」と一言。
この機械を使っていたメーカーさんは、いいビールが出せなかったから市場から退出していったのに違いありません。これは日本酒業界でもあることです。悪い日本酒を出荷するので、お客さんが離れ売り上げが落ちる。売り上げが落ちるからモチベーションが下がったり、資金も少なくなるので十分な清掃や技術の更新ができなくなる。さらに悪い日本酒を出荷する。この負のスパイラルは日本酒の業界でもよく起きていることです。
悪くするとお客さんのそのメーカーへの不信感はそれに留まらずその業界全体に広がってしまう。。。
退出していったメーカーさんの中古の機械が優秀で清潔であることを期待するのは難しいことなのかもしれません。
そして私はその後、この自分自身が言ったことばを強く実感することになるのです。
負のスパイラルにはまろうとしていたのです。

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